U-10は彼らの年代唯一の公式戦であるクラブ大会に参加した。
これに勝てば県大会、東海大会へと、つまり先につながる、今の自分たちの立ち位置を知れる良い大会だ。
一次予選
対FC円 9-0勝
対ボルティス 10-0勝
二次予選
対アウトライン 3-0勝
対ディバイン 9-1 勝
対アンフィニ 3-1勝
決勝トーナメント
準々決勝 対ジーベック 5—1勝
準決勝 対メジェール 1-1 PK3-1勝
決勝 対西濃シティ 3-2勝
優勝したね。
けれど、先に言っておこう。
これが先につながる大会だからこそ。
まだ4年生だからこそ。
何もまだ終わっていないからこそ。
先に言うべきだろう。
私はさして指導歴も長くない若造だが、それでも、4年生の段階で無敵だったチームが、6年生では一度も優勝できなかった事例を、たくさん見てきた。
本当に、たくさん……。
理由は簡単だ。
身体能力の差が埋まってしまうからである。
4年生という学年で強いチーム、結果を出すチームというのはサッカーが強いチームではないことがほとんどだ。
足の速い選手、体が強い選手が多く在籍しているチーム。そんなチームが優勝する傾向が強い。
個々の選手に身体能力に大きな開きが見られるこの年代では、そういうことが起きてしまうのだ。
もちろん、傾向が強い、というだけで、すべてのチームがそうというわけではない。
もう一度言う。傾向が強いというだけで、そういうわけではないよ! こうやって強調しとかないとまたあれがあれであれだから……。
我々のチームにも現在、足の速い4年生、体の強い4年生はいる。
けれど、そこだけに頼って、かまけていると、いずれ必ず後悔する日が来る。
別にパスを100回繋ぐとか、パスサッカーをしろとか、そういうわけではないので、そこは勘違いしないようにしてもらいたい。
パスを繋いだどころで、それが正しい選択でなければゴールには繋がらない。
チームとしての狙いどころは変わらない。
一番ゴールしやすいルートを選ぶ。
ただ、それだけだ。
それはきっと、相手によって違うだろう。相手がグーをだしてきたらパー。チョキをだしてきたらグーをだすまで。
問題なのは、相手がどんな手を出しているのか。それを見て、それに応じた正しい手をこちらで考えだし、出すことができるか、である。
そしてさらに問題なのは、プレーが成功したとしても、それは本当に正しい手を出したことで成功したものなのかどうかを分析することだ。
まぁ、それは我々指導者の仕事だが……。
そここそが、身体能力に大きな開きがある4年生の難しいところである。
グーはパーに勝てない。でも、ただの紙っぺらで、160キロのジャイロボールを止めることはできない。
つまり、本来は失敗するはずだった、間違ったプレー選択をしても、それを強力な身体能力で無理やり成功させることができてしまう、ということである。
もちろん、それはとても素晴らしい長所ではある。
が、もしその身体能力が通用しない相手に遭遇した時、身体能力の差が縮まった時、その選手はどうしようもできなくなってしまう。
それが前述した、後悔する日、である。
さて、ということで、分析してみるとしよう。
優勝したからといって、優勝したという結果だけしか見ないよう。
その内容はどうだったのか。
今回のプレーで、これから先もずっと、勝ち続けることができるのか。
内容を振り返ってみる。
今大会に向けて、そして彼らのサッカー力向上を目指して、前述のようになってしまわないように、対策はしてきた。
例えば、一学年上の大会に参加したり。
先日、選手育成を目的にあるU11のカップ戦に参加した。
まさか初戦から彼らと対戦することになるとは思ってもみなかったが……。
3年生が複数人いるうちからすると、大きさが倍近く違う相手選手もいた。
そんな相手とやれば、さすがに身体能力の差は消えてしまう。
頭の中で勝負しなければ、勝てるわけがない。
その大会は、負けはしたが、なかなか楽しめたのを覚えている。
少なくとも、あの日のパフォーマンスを出すことができれば、今大会でも良い戦いができると、そう確信していた。
だが……。
本番、サッカー力を発揮できていたかというと、良い戦いができていたかというと、胸を張って言うことはできない。
もちろん、良かった選手も少なからずいる。
#11はいつも以上にボールを持った時の判断や突破力があったように思う。#9はいつも通りのクオリティだった。まぁ、その二人に関しては「いつも通り」決定機を決めきれないこともあったが……。
それでも、いつもよりクオリティが落ちていることはなかった。
まだまだ改善することはたくさんあるが、現段階での彼らとして見ると、今大会の出来は及第点か、それより少し上、といったところだろう。
しかし、複数人の選手は、いつも通りの力を発揮できていなかったように思う。
原因としては、きっと精神的な弱さによるものだろう。
精神的余裕がなければ焦りを生む。焦りは判断を鈍らせ、攻撃の、守備の、技術を低下させる。その結果、ミスが起きる。
複数人の選手からは、落ち着きがなく、慌ただしさしか感じられず、リラックスしてサッカーを、この大会を楽しもうとする余裕が全く感じられなかった。
いつもなら落ち着いて空いたスペースにドリブルできるのに、パスコースを探せるのに、ボールを受けることができるのに、それができていなかった。
結果、スペースがある場所とは違う方向にボールを運び、パスを出し、ボールを失うという判断的ミスや、焦りのせいか、いつも以上に技術的なミスが目立っていた。
守備に関しても、いつもなら落ち着いて対応できる1対1の場面なのだが、急いで無理やりボールを奪いにいったのが原因で抜かれてしまう。
そんな攻撃的、守備的なミスを連発し、さらに焦りが生じてしまう。
悪循環である。
正しいプレーを選択することができず、身体能力でカバーする面も多く、それだけではカバーできないプレーすらも多数あった。
それが原因で、チャンスを作り出せる回数はいつもより少なく、ピンチを招く回数はいつもより多く感じた。
それは結果にも表れている。
明らかに練習試合の時より得点力が下がっているし、8試合中5試合も失点をしている。
本番に弱すぎる、というのが大きな課題の一つと言えるだろう。
これはどの学年にも言えることだろうけれど。
だからこそ、ここから先に書くことは、どの学年にも読んでもらいたい。
まぁ、ここまで読んでいたら、の話だが…。
メンタル的な部分の改善というものは、なかなか難しいものがある。
なぜなら、これまで10年間で形成され、固まり始めている性格の部分、その子の人間としての根本の部分を変える必要があるからだ。
でも、逆に言えば、変えるなら今しかない、という捉え方もできる。
大人になってしまえば、メンタル部分を変えることはほぼ不可能に近い。
子供とは過ごしてきた時間が違う。
自分が今まで経験してきた人生によって凝り固まってしまった考え方、人間性、信条や信念を変えるなんてそうそうできるものじゃない。
それは、自分の人生観の否定につながるからだ。
簡単に否定できるものなら、我々大人はもっと簡単に生きていける。
あ、いや、我々じゃなかった。
私はまだ大丈夫だった。だって私、まだ若手だから!
こうやって調子こいてるとまた嫌われるぞ……。
冗談はさておき……。
子供たちは我々とは違う。
まだ何色にも染まるし、変わることができる。
あとは、どうすればいいか、である。
何色にも染まえてしまえるからこそ、そこが重要だ。
さて、本番で緊張せず、本来のプレーができるようにするにはどうすればいいかだが……。
まず、場数を踏むことだろう。
本番をたくさん経験することで、次第にそれは普通になっていく。
私は小学生の頃、ピアノを習っていたのだが、初めてのピアノの発表会はめちゃくちゃ緊張したものだ。
しかし、回数を重ねるごとに、緊張なんてしなくなった。
そういうことだ。
負けて終わりの本番は、逆に言えば勝てば勝つほど終わらない。
だから、たくさん本番を経験することができる。
ラッキーなことに、次は県大会がある。それに勝てば東海大会もある。
そうやって、たくさんの本番を経験することで少しは本番に慣れることができるだろう。
しかし、この方法は根本の解決には至ってない。
結局慣れただけで、その子の心が強くなったわけではない。
きっと、自分が経験してきた本番以上の大舞台に遭遇してしまえば、そこでまた緊張に負けることになる。
根本の、弱い心の改善方法は一つしかない。
心の持ちようを変えることだ。
ここでミスをしたらピンチになる。この決定機を逃せば勝てなくなる。このままでは負けてしまう。
いいや、違う。
ここを成功させればチャンスにつながる。この決定機を決めれば勝てる。このままいけば勝てる。
そんなサッカー的部分から。
誰かと一緒が良い、友達と一緒が良い、一人じゃ嫌だ。
いいや、違う。
誰かがいなくてもいい、馴れ合いなんかいらない、一人でもだいじょうぶ。
お母さんにやってもらう、お父さんに協力してもらう、自分じゃ何もできないから。
いいや、違う。
自分でできることは自分でやる。自分にもできることがある。
こんな生活的な部分まで。
様々なところから、考え方を、心の持ちようを、心構えを変えていくことこそが、メンタル面強化の秘訣だろう。
以前にも引用したが。
「思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから。言葉に気をつけなさい、それはいつか行動になるから。行動に気をつけなさい、それはいつか習慣になるから。習慣に気をつけなさい、それはいつか性格になるから。性格に気をつけなさい、それはいつか運命になるから」
マザーテレサの言葉だ。
まさに、その通りである。
マイナスな思考、他者に縋る心、それは心の弱さに繋がり、弱音に。弱音は後ろ向きな行動、後ろ向きなプレーに。それは癖になり、性格になり、運命になる。
だから大人はなかなか性格を変えられない。それらを経て、大人になっているから。
逆に今から思考に気を付けていれば、子供ならまだまだ運命を変えられる。
もっと自信を持てばいいんだ。
自分にもできることがたくさんあると思えばいいんだ。
自分は誰にも負けないと、思っていればいいのだ。
慢心するのと、自信を持つことは全く違うから。
自分は世界一の選手、日本一の選手、岐阜県一の選手だと、そう思ってはいけない。
けれど、自分以上の選手がいるとも思ってはいけないのだ。
この二つは同じ意味のようで、全く違う。
世界一とか、岐阜県一とか、それらは周りの人たちが思ってくれるもの。
つまり、評価だ。
それを自分で思ってしまった時点で、それは慢心へと変わってしまうだろう。
だが、自分は誰にも負けないと思うことは、自信であり、慢心とは違う。
文字通り、自負に繋がるのだ。
自分は頑張っている、自分はよくやっている、自分はすごい、自分はうまい。
選手たちには、そうやって自分を「評価」するのではなく。
俺はあいつには負けない、俺は誰にも負けない、と。
そうやって「自負」してほしい。
私が考えるメンタル強化の秘訣はこんなところだ。
以下謝辞。
対戦していただいたチームの皆様、大会を運営していただいた皆様、審判員の皆様、ありがとうございました。
そして、応援していただいた保護者の皆様、本当にありがとうございました。
それと、ここまで読んでくれた読者の皆様。小説だとひと展開分くらいの分量ですよ本当に。
こんな長ったらしい文章に最後まで付き合ってくれてありがとうございます。
さて、オフシャルブログにしては、ちょっと長くなりすぎたが……。
あと、もう一つだけ。
もっと負けたら終わりの本番を楽しんでほしい。
いつもとは違う空気、環境、状況。
そんな非日常を、楽しめばいいのだ。
こういった大会は、遠足や、旅行や、そんないつもとは違う特別なイベントと何ら変わりない。
非日常なのだ。
焦って、空回りして、不安で一杯になってプレーするなんて、損なだけではないか。
緊張も、負けたら終わりという状況も、周りの期待も、いつもとはひと味もふた味も違う特別な調味料みたいなものだ。もっと噛みしめて味わえばいいのさ。
負けたら終わりと言っても、その大会が終わるだけ。
今後のサッカー人生が、世界が、終わるわけではないのだから。
次は県大会と言う名のスペシャルコース。
味わって食べるといい。