12月7日。土曜、曇り。冷たい風と寒々とした空気で嫌になった。
……いいや。
この日だけじゃない。
ここのところずっと、嫌だった。
天気予報には雨マークなどついていないのに、曇天がずっと頭上に広がり続け、雨が降り、そのせいで気温はどんどん下がっていく。
凍えるような日々の連続だった。
たくさんの人々の心が沈んでいた。
癒えない傷が心の底でいつまでもズキズキしていて、誰もが毎日を惰性で過ごし、ついこの前まであった生気みたいなものが完全に失われていた。
なんのために練習をするのか。
なんのために頑張るのか。
なんのために、やっているのか。
分からなかった。
……いや、少し違うな。
なにが楽しくてやっていたのか。
それを忘れてしまっていたのだ。
そして。
12月8日。日曜、晴れ。
暖かい空気が会場を包み込んでいた。
風はあったが、それでもグラウンドを照らす陽光がその風を生温いものにしてくれて。
だから、邪魔くさいコートを脱ぎ捨てることができた。
そう。
この日、我々は思い出した。
選手たちが、思い出させてくれた。
もちろん、選手たち自身も、自分たちの力で思い出しただろう。
なんのためにやっているのか。
なにが、楽しかったのか。
そうだ。
我々はあの笛が鳴った時の、あの一瞬のためにすべてを尽くしているのだ。
拳を握ったり。
空を見上げて大声を上げたり。
仲間の体を抱きしめたり。
脳に命令を出しているわけでもないのに、体が勝手に動いてしまう。
あの時間は。
最高だ。
私も昔を思い出したよ。
まだ若々しい指導者時代は、点を取ればその場で飛び跳ね、失点すれば落胆し、勝ったら大声を上げていた。
いつしかそんなことはしなくなり、ただ淡々と試合をこなす冷静さを身に着けてしまっていた。
グラウンドで飛び跳ねたのは、久しぶりだった。
それを思い出させてくれた選手には、感謝すべきなのだろう。
まったく、私も老いたものだ。
勝ち負けのない試合など楽しいものか。
それはサッカーというスポーツ自体を否定することに繋がる。
勝敗があるからこそ、ボールを蹴ることが、ゴールにボールを入れることが、ゴールにボールを入れさせないことが、この上なく楽しいことになるのだ。
あの最高の時間を過ごせるために。
過ごせる場所に立つために。
そう願う選手だけが、努力して。
走る。走って、走って、走り続けるのだ。
困難や、挫折や、すれ違いや、様々なことが目の前に立ち塞がるだろう。
負けることだってある。
つまずくことだってあるし。
立ち止まってしまいたくなることもあるかもしれない。
でも、それでも。
あの瞬間が、すべてを変えてくれる。
今回、このクラブ選手権はとてもラッキーだった。
だって、そんな瞬間を味わえるチャンスを三回も得ることができたのだから。
決勝戦と思えるようなチームとの三連戦。何度決勝をやればいいんだと呪うところだったけれど。
そして残念ながら最後は、最高の瞬間にすることができなかったけれど……。
それでも、楽しいという感情が全員の心を包み込んでくれた。
彼らの頑張りがなければ、この気持ちを抱くことはできなかった。
いや、まぁ、うん、そうだな……。
選手たちは、よく走った。
ああ、そうだ。そうだとも。よく戦ったよ。頑張ったよ。
素晴らしい一日に、してくれたよ。
相手もこちらもガチンコの決勝三連戦。
一試合一試合が長くて、何度時計を見たか分からない。
一分一秒がなかなか過ぎ去ってくれなくて。
ラストのコーナーキックなんか、心なしかボールが落ちるまでが永遠にも続くような時間に感じられて。
そんな、長い長い一日で。
この日のことは、きっといつまでも記憶に残り続けるだろう。
幸せなひと時は麻薬のようなものだ。
一度味わってしまえば、何度も、何度も、何度も、味わいたくなる。
だから、人は幸せを求め続ける。
今回、選手たちは勝利の瞬間を体験することができたはずだ。
だから。
次も、その幸せを求めているはずで。
それを得るために。
練習だろうが、公式戦だろうが、なんだろうが。
何度だって、走ってくれるだろう。
以下、謝辞。
運営くださいましたクラブ連盟の皆様、ありがとうございました。
そして、対戦していただいたチームのみなさま、ありがとうございました。
そしてそして、ご声援くださいました保護者の皆様、他カテゴリーの選手たち。
本当にありがとうございました。皆様の声が絶え間なく選手たちに届いていたおかげで、彼らは最後まで戦うことができました。
まだもう少し続くこととなりました。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。
さて、もし負けてしまったら、6年生の物語は一度幕を閉じるところだったが。
それが延びることとなった。
最後のお祭りが、2月に待っている。
ただ……。
それは、どんな結果になろうとも、どうあがいても、最後で……。
祭りが終われば。
すべては後の祭り。
人生はいつだって取り返しがつかない。
こんなどうしようもない日常でさえ、あと少しで失ってしまうのだ。
だから――。
だから、失った時を。
最高の瞬間で終われるように……。
次は、これ以上の感動を!