心なしか、最近三連休が多い気がする……。
基本的に私の日中の仕事スケジュールは月曜日が休みなのだが、これでは休みがないではないか。
祝日は休みであるはずなのに、祝日があるせいで休みがなくなるとは、もうなにも「祝」じゃない。
帰っては寝て、次の日もまた仕事。
そんな切羽詰まった生活では、祝っている暇なんてない。
祝うのにも、楽しむのにも、余白が必要である。
頑張るのは大切だが、無理をするのは違う。
休息とサボりは違うのだ。
……なら、明日は仕事を休んでもいいのだろうか? 違うか。違うな。
今日の上級学年の練習をオフにした。
日曜日はカップ戦、そしてトレセンの選考会。
月曜日もTRMでしっかりすぎるほど走った。
さらに今日も練習をやってしまえば、完全にオーバーワークとなってしまうと考えたのだ。
いい機会なので、今回はちょっと小難しい話をしようと思う。
我がチーム所属の方々はお気づきの方もいるだろうが、基本的に3連休は各学年、できる限り一日はオフを入れようとしている。
もちろん、そうできない場合もあるが……。
以前、レスターは練習をたくさんしていると聞いたことあるが、別にそんなこともない。
休日のトレーニングは通常2時間。長くても3時間。
練習試合も、なるべく半日で終わるようにしている。
ただ、カップ戦などはスケジュール的に終日かかってしまうこともある。
平日に関しても、2時間の練習を週に2回。
アカデミー生はスクールに自由参加できるので、それに参加したとしても必ず一日の休みはある。
これを「残りの時間がもったいない」ととるか「大切な余白」ととるか。
確かに、時間は有限だ。
その時間を有効活用しようと思うのは当然のことだろう。
成長期真っただ中であるジュニア年代。
限られた時間で少しでも多くの成長機会を。
そう思ってしまうのも仕方がないと思う。
ただ、それは残りの時間を「無意味な時間」と思っているのからではないだろうか。
その時間は、別に無意味なんかじゃない。それも「成長に必要な機会」なのだ。
人間が一体どのように成長するか。
そのメカニズムをご存じだろうか?
動く→ 疲労する→休養を取る→成長する→また動く
簡単に言えば、このループが人間の成長に一番適していると考えられている。
これは個人の意見ではなく、世界の偉いスポーツ研究者の人たちが導き出してくれた答えだ。
練習で体が疲労すると、体は栄養を欲する。そこに栄養を送り込み、体が十分それを吸収できるのを待って。そのあとまた練習する。能力の向上という観点で言えば、これが一番効果的だ。
これを、練習で体が疲労したまた次の日に体を疲れさせてしまうと、取った栄養はその疲れを元に戻すためだけに使われてしまい、体に十分な栄養が蓄えられない。
成長期の子どもたちには、成長に回すだけのエネルギーが必要なのに、体の中に貯蔵されているエネルギーを使い切ってしまうようなスケジュールでは、回復することで精一杯になってしまうというわけだ。
インフルエンザ明けの選手のパフォーマンスが妙によかったり。
一か月ほど怪我で休んでいた選手が復帰したら、いつの間にか身長が大きくなっていた。
指導者の間ではこんなことがよくある。
猛暑日での練習を避けるため、夏休みはまるまる休みをとってみたチームでは、夏休みの間で約5cmほど身長が伸びた選手がいたと聞いた。
つまり、そういうことなのだ。
成長期が過ぎた大人である、プロのサッカー選手が過ごす一週間ですら休みがある。
先ほどのメカニズムをもう少しだけ踏み込んで言うと、身体機能的・生理学的に、細胞の修復といった回復のプロセスは48時間かけて行われる。
我々のチームの平日練習が2日連続で行われず、間に必ず1日のオフがあるのもこれが理由だ。
その理論をもとにして、プロのチームも一週間のスケジュールを組む。
日曜に試合があるとしよう。
月曜に体のリカバリーセッション(つまり軽いトレーニング)を行い、火曜をオフにして回復を促進し、再始動した水曜日からある程度の負荷をかけてトレーニングする。
また、生理学的には火曜をオフにした方がいいものの、試合の次の日というまだ興奮状態が残っている日にリカバリーセッションを行うのは心理学的にはよくないとし、月曜日をオフにして、火曜に回復トレーニング、水曜日から再始動するチームもある。
大人でもこれなんだ。
であれば、成長期である子供もそれと同等か、それ以上休む必要もあるだろう。
実際、海外のジュニアチームも休みがたくさんある。
夏休みの半分以上が休み、なんてチームも珍しくない。
海外にサッカースクールがごく少数しかないのもそれが理由かもしれない。
やっても繁盛しないのだ。
きっと需要がないのである。
自分のチームで練習やってるのに、他のところでも練習なんてやってられるか! と考えているから。
そんな練習量が日本人より劣っているであろう彼らは、大人になっても日本人よりサッカーの強さは劣っているだろうか?
そんなことはない。
普通にこっちが負けている。
量をこなすことだけが成長に繋がるわけではないのだ。
人間は100%でプレーができる時間と頻度が限られている。
だから全力で取り組んでしまうと、先に述べたように48時間の休養時間が必要になる。
でも、その休息時間がないとなると、ひとつの練習や試合で全力を出さないようにしなければいけなくなる。
スケジュールをただこなすために、惰性になってしまうのだ。
でもそれでは願った成長と真逆のことが起きてしまうのではないだろうか。
手を抜かざるを得ない練習を取り組んで、それが成長に繋がるのか?
一日サボれば三日下手になる。
そんな旧石器時代の迷言を信じてはいけない。
やればやるほどうまくなるなんて、戯言なのだ。
伸びしろのある余白の時間を大事にしながら、限られた一つひとつの大切な練習に集中して、可能な限り100%の力で臨めるような生活サイクルを作ることが大切。
我々大人だってそうだ。
お金という報酬を得ることができても、それでも毎日が仕事のブラック企業なんてごめんだ。
土曜日曜があるから、金曜日の仕事は集中することができる。
まぁその分、月曜日はガッカリもするが。
また土日に向けて頑張ることができるし。
たまの祝日はハッピーになれるんだ。
以下、謝辞。
練習をオフしたタイミングというのもあって、書くにはいい機会かと思いまして、今回はいつもの戯言シリーズではなく、久方ぶりの知識に関するお話。
ただ一つ言っておきたいのは、これを書いたのは、絶対こうあるべきだと説きたかったからではありません。
単なる教科書の一ページ。
我がチームのスクールにもいろんなチームの選手が来てくれています。それはそれでとても嬉しいことです。
知識として、こういうものがあるのだと、シェアさせていただきました。
何かの参考になっていただければ幸いです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
好きな食べ物は、誰だって食欲をそそられる。
でも、どれだけ好きな物だったとしても、毎日食べていたらそれを見ても食欲が失せるようになってしまう。
強要が続けば、やがてその食べ物を嫌いになってしまうだろう。
食べ物でなくても、それは同じ。
どれだけ好きなものでも、毎日のようにやらされれば、どこかで惰性がでてきてしまう。
日本人は練習をしすぎ。
よく言われる言葉だ。
これはきっと、誰のせいでもないのだろう。
社会が悪い。
定時で帰るのは悪いこと。
出勤時刻の30分前にはデスクにいないとおかしい。
有休を取るのは罪で。
休み明けは上司に嫌な目を向けられる。
こんな日本の社畜環境が子供にまで影響しているのだ。
なら、子供を指導する我々がまずお手本となって、休みを取るべきではないだろうか。
……よし、明日は仕事をサボっちゃおう! やっぱりそれは違う。
忙しくするのは我々大人だけで十分だ。
社会を回すためには、誰かが頑張らなければいけない。
誰かがそれをやってくれるから、少なからず好きなことで生きていける者がいるし。
子供たちの未来には常に明かりが見えている。
だから、たとえこの身が朽ち果てようとも。
三連休で一度も休みがないのだとしても。
――これからも照らし続けよう。